民泊にどれだけの人が泊まっているのかを調べると、観光庁が民泊制度ポータルサイトで公表している「住宅宿泊事業法の施行状況」の宿泊者数にたどり着きます。令和8年6月1日から7月31日までの2か月間で582,162人。届出住宅に泊まった人の数として公表されている値です。
この数字は、調査員が宿を回って数えたものではありません。住宅宿泊事業者が自分で提出した報告を、観光庁が足し上げたものです。何を数えるか、いつまでに出すかは、住宅宿泊事業法施行規則で決まっています。つまりこの数値を読むことは、自分がこれから出す報告の中身を読むことでもあります。
先に三つ確認しておきます。宿泊者数のもとになるのは宿泊者名簿の記載事項です。報告する項目は宿泊日数・宿泊者数・延べ宿泊者数・国籍別の宿泊者数の内訳の四つで、提出は偶数月の15日までです。そして公表されている582,162人は、報告のあった36,198件ぶんの合計であり、全国の届出住宅すべてを合計した数ではありません。
この記事では、公表値が何を数えたものか、名簿から公表までの経路、報告する四項目と公表される集計値の対応、報告する国籍の区分と公表される区分の粗さの違い、1件の予約が三つの単位でどう数えられるか、そしてこの数字では答えられないことを、法令と公表資料の表記にそって整理します。書かれていない項目は、推測で埋めずに掲載がないと書きます。
公表されている宿泊者数は、報告のあった分の合計
まず、公表値そのものを確認します。施行状況のページに載っている宿泊実績は、令和8年6月1日から令和8年7月31日までを対象期間としたものです。
| 項目 | 公表されている値 |
|---|---|
| 対象期間 | 令和8年6月1日〜令和8年7月31日 |
| 届出住宅数 | 42,587件(7月31日時点) |
| 報告件数 | 36,198件 |
| 報告率 | 85.0%(9月15日時点) |
| 宿泊者数 | 582,162人(前年同期比123.8%) |
| 延べ宿泊者数 | 1,627,034人泊(前年同期比131.2%) |
| 宿泊日数 | 557,439日(前年同期比129.3%) |
いちばん先に見てほしいのは、宿泊者数ではなく報告率です。85.0%は、報告を出した住宅の割合です。残りの約15%にあたる住宅の宿泊者は、582,162人という合計にも、後で出てくる国籍別の内訳にも入っていません。この集計は全数調査ではなく、届いた報告を足し上げたものだ、という前提がここに書かれています。
前年同期比123.8%という値も、同じ前提の上にあります。前年の同じ期間の報告率がいくつだったかは、このページには掲載がありません。報告の出方が年によって変われば、増え方の一部はそれを映します。伸び率をそのまま需要の伸びとして引用しないほうが安全です。
同じページには、届出住宅あたりの値も並んでいます。宿泊日数15.4日、宿泊者数16.1人、延べ宿泊者数45.0人泊。この分母が届出住宅数ではなく報告件数であることは、民泊の統計はどこで確認するかで公表値どうしを突き合わせて確かめています。数字の単位と分母の話はそちらにまとめてあるので、この記事では宿泊者数という数値そのものの作られ方を追います。
同じページに、時点の違う届出住宅数が二つ載っていることにも注意してください。上の表の42,587件は対象期間の末日である7月31日時点のもので、ページ上部の届出状況に出ている43,037件は令和8年9月15日時点のものです。どちらを引用したのかが分からなくなると、後から検算できなくなります。
数字のもとは、宿泊者名簿に書いた項目
宿泊者数は、報告の段階でいきなり現れる数ではありません。もとになるのは、宿泊のたびに記録している宿泊者名簿です。
住宅宿泊事業法施行規則第7条は、名簿の扱いを定めています。第3項では記載事項を「宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日のほか、宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときは、その国籍及び旅券番号」としています。第1項は「正確な記載を確保するための措置を講じた上で作成し、その作成の日から三年間保存する」こと、第2項は備え付ける場所を届出住宅か住宅宿泊事業者の営業所または事務所のいずれかとすることを定めています。
ここで注意したいのが、国籍を記録する対象です。規則の条文は、国籍と旅券番号の記載を「日本国内に住所を有しない外国人」について求めています。日本国内に住所のある外国人は、氏名・住所・職業・宿泊日という共通の項目の対象ではありますが、国籍欄の記載を求める文言の対象には含まれていません。後で見る国籍別の内訳が、日本に住んでいる外国人をどちらに数えているかは、公表資料には記載がありません。内訳を引用するときは、この一点を承知したうえで使ってください。
観光庁は事業者向けの案内で、国内に住所のない外国人について、国籍及び旅券番号欄への記載を徹底し、旅券の呈示を求めるとともに、旅券の写しを宿泊者名簿とともに保存することを求めています。旅券の写しによって氏名・国籍・旅券番号欄の記載を代替することも認められています。名簿の作り方そのものは民泊の宿泊者名簿に、確認の手順は民泊の本人確認にまとめています。
規則第7条第4項は、記載事項が電子計算機のファイルなどに記録され、必要に応じて明確に紙面へ表示されるときは、その記録をもって名簿への記載に代えられるとしています。電子で持っておくと、後の報告作業がそのまま続きになります。
2か月ごとに報告する四つの項目と、その期限
報告の中身を決めているのは、同じ規則の第12条です。第1項は報告事項を四つ挙げています。届出住宅に人を宿泊させた日数、宿泊者数、延べ宿泊者数、国籍別の宿泊者数の内訳です。
第2項は提出の時期を定めています。住宅宿泊事業者は、届出住宅ごとに、毎年2月・4月・6月・8月・10月・12月の15日までに、それぞれの月の前2か月における四項目を都道府県知事へ報告することになります。2か月ぶんをまとめて出す形なので、公表される実績も2か月ぶんずつ更新されます。先月の稼働を知りたいという用途に、この統計が向かない理由でもあります。
提出の方法は、観光庁の「電子宿泊者名簿・定期報告方法」のページに書かれています。住宅宿泊事業者は2か月ごとに宿泊日数等を報告する必要があり、この定期報告は民泊制度運営システムにログインしたうえで、直接入力するか、定期報告データのCSVファイルをアップロードすることにより行うと説明されています。CSVの項目として並んでいるのは、届出番号、報告対象期間、宿泊日数、宿泊者数、延べ人数、国籍、宿泊日です。
報告する側の項目と、公表される側の集計値は、次のように対応します。
| 規則第12条が定める報告事項 | 施行状況で公表されている集計値 |
|---|---|
| 届出住宅に人を宿泊させた日数 | 宿泊日数 557,439日 |
| 宿泊者数 | 宿泊者数 582,162人 |
| 延べ宿泊者数 | 延べ宿泊者数 1,627,034人泊 |
| 国籍別の宿泊者数の内訳 | 日本国籍247,437人・外国人334,689人と、外国人の上位5か国・地域 |
対応表を作ってみると、公表されている集計値が報告事項とそのまま一対一で並んでいることが分かります。裏を返すと、報告事項に入っていないものは、この統計からは絶対に出てきません。宿泊料金、部屋の広さ、予約経路、リピートかどうかは報告事項ではないので、いくら探しても掲載がありません。
報告する国籍は22区分、公表されるのは2区分と上位5か国・地域
四項目のうち、報告と公表のあいだで粒度がいちばん変わるのが国籍別の内訳です。
定期報告のページには、国籍の区分として日本、韓国、台湾、香港、中国、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ロシア、米国、カナダ、オーストラリア、その他が並んでいます。事業者は22の区分に分けて報告することになります。
これに対して、公表される内訳は粗くなります。宿泊者数582,162人のうち、日本国籍を有する者が247,437人で42.5%、外国人が334,689人で57.5%。前年同期比は日本国籍が127.0%、外国人が121.4%です。外国人宿泊者を国籍別にみた上位5か国・地域は、第1位が米国、第2位が韓国、第3位が台湾、第4位が中国、第5位が香港で、この5か国・地域で外国人宿泊者数の59.0%を占めるとされています。国・地域ごとの人数は掲載されていません。
国籍をまとめた地域別の割合も載っています。東アジアが最も多く44.4%、次いで北米が16.7%、欧州が11.3%。この三つの割合について、資料は「全体の」とだけ書いており、外国人宿泊者を分母にしているのか宿泊者数全体を分母にしているのかは明示されていません。上位5か国・地域の並びと合わせて読むと外国人の内訳として扱っているように読めますが、断定できる書き方にはなっていないので、分母を補って引用しないでください。
つまり、22区分で集めた情報のうち、外部から見えるのは2区分の人数と、上位5つの順位、その合計割合、そして地域別の割合だけです。米国が1位という事実は分かっても、2位の韓国とどれだけ差があるのかは公表資料からは分かりません。国籍別の需要を細かく見たい場合は、この統計ではなく別の資料を開くことになります。どの統計が何を数えているかは国籍別の訪日客数はどの統計で見るかで整理しています。
自分の物件の客層は、公表資料からではなく手元の報告データから読めます。22区分に分けた数字は、報告のために毎回作っているものです。提出した後で捨てずに、期ごとに並べておけば、全国値より先に自分の構成比が分かります。
1件の予約は、三つの単位で別々に数えられる
報告のときにいちばん取り違えやすいのが、宿泊日数・宿泊者数・延べ宿泊者数の三つです。同じ1件の予約が、三つの数え方でそれぞれ別の数になります。
3名が2泊したとします。人を宿泊させた日数は2日です。何人が泊まっていても、1日は1日として数えます。宿泊者数は3人。泊数は掛けません。延べ宿泊者数は人数に泊数を掛けた6人泊になります。これは仕組みを理解するための仮定であり、特定の物件の実績を示すものではありません。
全国の公表値も、同じ関係で並んでいます。延べ宿泊者数1,627,034人泊は、宿泊者数582,162人の3倍弱です。1人が1泊しか泊まらなければ二つの数は一致するので、この差は滞在が複数泊にわたっていることを表しています。ただしこの読み方は公表値どうしを並べたもので、平均泊数としてページに書かれている値ではありません。引用するなら、自分で突き合わせた比較であることを添えてください。
三つのうち宿泊日数だけは、性格が少し違います。人を宿泊させる日数には住宅宿泊事業法で上限が置かれており、報告する宿泊日数は、この上限と同じ数え方の系列にある値です。上限の日数と、その起算日や迷いやすい場面は民泊の年間提供日数の数え方で扱っています。人数を増やしても宿泊日数は増えませんが、日数のほうは上限に近づいていきます。
この数字では答えられないこと
宿泊者数の公表値には、答えられる問いと答えられない問いがはっきり分かれています。答えられないほうを先に並べます。どれも公表資料に書かれていることか、書かれていないことです。
一つ目は、全国の届出住宅で実際に何人が泊まったかです。報告率は85.0%で、報告のなかった住宅の分は含まれていません。報告のない住宅がまったく稼働していなかったのか、それとも稼働していて報告が出ていないだけなのかは、資料からは分かりません。
二つ目は、市区町村ごとの人数です。公表されているのは全国と都道府県別までで、それより細かい区分は掲載がありません。自分が営業する区や市の水準を知りたい場合は、届出先の自治体が独自に公表している資料を探すことになります。
三つ目は、国・地域ごとの人数です。上位5か国・地域の順位と、その合計が外国人宿泊者数の59.0%という値までは公表されていますが、個別の人数は掲載されていません。
四つ目は、同じ人を何回数えているかです。報告は届出住宅ごとに提出されるため、同じ人が期間中に複数の届出住宅へ泊まった場合や、同じ住宅へ再訪した場合をどう数えるかについて、公表資料に説明はありません。宿泊者数を「日本の民泊を利用した実人数」と読み替えないでください。
そして共通の限界として、これは全国を合計した値であり、自分の物件の値ではありません。売上の見積もりは、営業できる日数と定員という自分の条件から組み立て、統計はその前提が市場の動きから外れていないかを確かめるために使います。組み立て方は民泊の売上予測にまとめています。
報告する側として、いま決めておくこと
最後に、この数字を作る側としての実務を三つ挙げます。
一つ目は、名簿の国籍欄です。報告の四項目のうち国籍別の内訳だけは、宿泊が終わってから思い出して埋めることができません。国内に住所のない外国人については、旅券の呈示を求め、写しを名簿とともに保存するところまでが案内されている手順です。チェックインの流れの中に組み込んでおかないと、報告の直前に困ります。非対面で受け入れる場合の手順は民泊の業務効率化でも触れています。
二つ目は、提出日の把握です。2月・4月・6月・8月・10月・12月の15日までに前2か月分を、届出住宅ごとに報告します。複数の届出住宅を持っているなら、住宅の数だけ提出が必要になります。届出後に続く業務の全体像は住宅宿泊事業者とは何かにまとめてあります。
三つ目は、引用するときに添える情報です。宿泊者数を事業計画や説明資料へ載せるなら、対象期間(令和8年6月1日から7月31日まで)、報告件数と報告率(36,198件・85.0%)、そして確認日の三つを必ず一緒に書いてください。この三つがあれば、読んだ相手が同じページで裏を取れますし、数か月後に見返したときに、更新されたのか誤りなのかを区別できます。
この実績は2か月ごとに更新されます。公表の対象期間が進むと、前の期間の数値はページから消えます。次に同じ数字を使うときは、手元のメモではなく出典のページを開き直してください。
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